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猫の呼吸困難:一過性心不全の診断と治療経過【症例紹介】

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はじめに

「猫の呼吸が浅くて速い」
「肺炎かも?と診断されたけど、薬が効かない…」

そんなとき、見逃されがちなのが心臓の病気による呼吸困難です。
今回は、他院で肺炎と診断された3歳の猫ちゃんが、
当院で心原性肺水腫(一過性心不全)と診断され、治療によって回復した症例をご紹介します。

飼い主さんの判断力と、正しい診断によって、手遅れになる前に回復できた成功例です。

 

症例紹介

症例:猫(雑種)、3歳、去勢♂

主訴

 3週間前から食欲が低下

 2週間前に他院で肺炎と言われて入院治療していた

 改善しないことから当院を受診

シグナルメント

 体重:4.3kg

 心拍数:244回/分

 呼吸数:90回/分

 呼吸様式:浅速呼吸

 

検査所見

血中酸素飽和度:85%であり、低値を示していました(低酸素血症)。
*正常は95%以上

聴診:心雑音は聴取されませんでした。

胸部X線検査(図1):ラテラル像においてVHSは8.4であり正常範囲内でしたが、ラテラル像ならびに腹臥位像では肺野の不透過性がわずかに亢進していました。
*不透過性亢進:
白くモヤがかかるような所見

肺エコー検査(図2):左右の胸壁(肺後葉領域)でBラインが強陽性を示しており、肺実質の異常が示唆されました。
*Bライン:肺水腫または肺炎の可能性が疑われる所見

心エコー図検査(図3):左心房は重度に拡大しており、うっ血徴候が示唆されました。左室自由壁は軽度に肥厚していましたが、明らかな心筋症を示唆する所見は認められませんでした。

血液検査

心臓病マーカーであるNT-proBNP(572 pmol/L)は上昇していました。→ うっ血性心不全の疑い

炎症マーカーであるSAA(<3.75 ug/mL)は正常範囲でした。

 

 

診断

急性うっ血性心不全による心原性肺水腫

本例では明らかな心筋症を示唆する所見はみられませんでしたが、重度な左心房拡大があり呼吸困難を伴うことからうっ血性心不全であると判断しました。

胸部X線検査ならびに肺エコー検査から肺実質の病変が示唆され、うっ血性心不全による心原性肺水腫と肺炎の可能性を考えました。

SAAは正常値であり肺炎の可能性が低いことから、心不全治療を行うことにしました。

 

治療方針

  • 飼い主様の希望により自宅療養を選択
  • フロセミド(利尿薬)、ピモベンダン(強心薬)を開始
  • 念のため、肺炎の可能性も考慮しエンロフロキサシン+ビブラマイシン併用

本例のような呼吸困難を伴う症例では基本的に入院治療を推奨していますが、飼い主様は自宅療養を希望されたためフロセミドとピモベンダンの内服を開始し、念のため肺炎治療の抗生剤(エンロフロキサシン、ビブラマイシン)を併用することにしました。

 

経過

3日後の再診時

呼吸状態が改善していました。

胸部X線検査では肺野の不透過性が改善していました(図4)

 

肺エコー検査でもBラインが消失していました(図5)。

その後は心不全治療のみを継続しました。

 

 

第66病日の再診時

・左心房の縮小⇒心不全の改善
左心房径が15.3mmから12.9mmに縮小しており、LA/Ao比は2.2から1.6に縮小していました。

・Mモード検査でも悪化はない⇒心筋症の可能性が低い
 左心室壁厚ならびに左室内径、左室内径短縮率は正常値であり、大きな変化はみられていません。

・NT-proBNPの低下⇒心不全の改善
このことから、心不全治療薬を漸減しています(図6)。

本例では心室壁の肥厚は認められていないため一過性心筋肥大とは異なりますが、内科治療を漸減してもうっ血徴候は再発せず、NT-proBNP は徐々に低下していることから一過性心不全の可能性を疑っています。

一過性心不全とは?

  • 肥大型心筋症によるうっ血性心不全と非常に酷似
  • 適切な治療を行うことで心肥大が正常化
  • 治療の必要がなくなる

猫の心不全は心筋症に続発することが多く、継続的な治療が必要になることが多いですが 稀に一過性の心不全を起こす事例が報告されています[1]。一般的には「一過性心筋肥大」と呼ばれ肥大型心筋症によるうっ血性心不全と非常に酷似していますが、適切な治療を行うことで心肥大が正常化し、治療の必要はなくなります。

 

まとめ

✅ 猫の呼吸困難=肺炎とは限らない
✅ 心原性肺水腫であれば、内科治療で回復も可能
✅ 一過性心不全は適切な治療により完全回復することもある
✅ 正確な診断のためには循環器の専門検査が必要です

猫の心不全は心筋症に続発するケースが多いですが、
まれにこの症例のように一過性で、完全に回復する心不全が存在します。

 

飼い主さんへのメッセージ

猫の呼吸が苦しそうなら、まずは心臓と肺の精密検査を

「肺炎かと思ったけど治らない」
「抗生剤を飲んでも呼吸が楽にならない」

そんな違和感を感じた時こそ、心臓が原因の可能性を考えてみてください。心臓の病気は見逃されやすく、進行すると命に関わるケースもあります。
今回のように、専門的な循環器検査と判断によって、正しい治療にたどり着けることがあります。

少しでもおかしいと感じたら、遠慮なくご相談ください。

 

よくある質問(FAQ)

Q1. NT-proBNPが高いと心不全確定ですか?

 A1. 確定とは限りませんが、心臓に負担がかかっている可能性が高い状態です。
   超音波検査などと合わせて判断します。

 

Q2. 一過性心不全は再発しますか?

 A2. 基礎疾患がなければ、適切な治療後に完全に回復し、治療終了できることもあります。

 

Q3. 肺炎と心原性肺水腫はどう見分けるの?

 A3. 胸部レントゲンや肺エコー、炎症マーカー(SAA)、心臓の超音波検査を組み合わせて総合的に判断します。

 

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参考文献

1.Novo Matos J, Pereira N, Glaus T, et al. Transient Myocardial Thickening in Cats Associated with Heart Failure. J Vet Intern Med 2018;32:48-56.

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Author

院長 獣医師 獣医循環器学会認定医 アジア獣医内科専門医(循環器)

Director D.V.M., Ph.D.Yasutomo HORI

プロフィール

2001年
北里大学獣医畜産学部獣医学科 卒業
2001年4月-
2005年3月
小儀動物病院 勤務
2005年
北里大学獣医畜産学部小動物第3内科 助手
2007年
北里大学獣医学部小動物第3内科 助教
日本獣医循環器学会認定医 取得
2009年
博士(獣医学)取得
2010年
北里大学獣医学部小動物第2内科 講師
2015年
北里大学獣医学部小動物第2内科 准教授
2016年
酪農学園大学伴侶動物内科学IIユニット准教授・循環器科診療科長
2020年
大塚駅前どうぶつ病院 心臓メディカルクリニック 院長
2021年
アジア獣医内科専門医(循環器) 取得

役職

  • 日本獣医循環器学会 理事(2017年~)
  • さっぽろ獣医師会 理事(2019年~2020年)
  • どうぶつ検査センター株式会社 アドバイザー(2020年~)
  • VMN コンサルタント(2020年〜)
  • 動物臨床医学会 循環器分科会企画実行委員 (2024年~)

所属学会

  • 日本獣医循環器学会

大学教員として、犬や猫の心臓病および心不全の診断・治療に関する研究に数多く携わってきました。
また、獣医師向けの各種セミナーで講師を務めるほか、獣医関連の雑誌や書籍の執筆にも精力的に取り組んでいます。
これまでの経験を活かし、飼い主様と動物に寄り添う獣医療を提供いたします。

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