猫の心室頻拍|呼吸が速い・元気がない時に疑うべき病気とは?
はじめに
猫の「呼吸が速い」「元気・食欲がない」は心臓病のサインかも?
「最近、猫がふらふらする」「元気・食欲がない」そんな症状があれば、心臓の病気や不整脈の可能性を考える必要があります。
今回は、当院に来院した猫に認められた心室頻拍(VT)の症例を通して、
発見のポイントや検査・診断・治療の流れを解説します。
症例紹介
症例:Mix猫、避妊済みメス、6歳

主訴
- 昨日の夕方から開口呼吸をする
- ぐったりして呼びかけに反応しない
- 元気と食欲の低下
という主訴で心臓病の精査を希望して紹介来院されました。
シグナルメント
- 来院時には少しボーっとしている様子でした
- 呼吸数:呼吸は浅く、速い(104回/分)
- 心拍数:脈が速い(200回/分)
- 体重:3.25kg
検査所見

聴診:心雑音は聴取されませんでした。
胸部レントゲン検査(図1)
心陰影のサイズは正常⇒重度な心不全の可能性は低い
肺野の不透過性亢進像はない⇒肺炎・胸水などが否定的
図1:胸部レントゲン検査所見心陰影ならびに肺野の異常は認めなかった
心エコー図検査(図2)
左心房ならびに右心房が拡大している⇒循環不全によるうっ血が示唆される
心室壁の肥厚や収縮率の低下などはない⇒明らかな心筋症の所見がない

図2:心エコー図検査所見
長軸像では左心房(LA)ならびに右心房(RA)の拡張が確認される(左図)。
Mモード検査では心室中隔壁(4.1mm)ならびに左室自由壁(3.2mm)の肥厚はみられず、収縮率も正常であった(右図)。
血液検査
- CPK:917IU/l⇒心筋や骨格筋の障害を示唆
- SAA:27.5μg/ml⇒軽度な炎症反応あり
- NT-proBNP:409.8 pmol/L(正常値:100未満)⇒軽度から中等度の心筋障害を示唆
- ANP:144.9 pg/mL(正常値:~96.7)⇒軽度なうっ血を示唆
- 高感度トロポニンI:2.66 ng/ml(正常:〜0.08)⇒重度な心筋の損傷を示唆(心筋虚血、心筋炎など)
心電図検査(図3)

図3: 初日の心電図検査所見
P波が確認されず、幅の広いQRS波が連続して頻発していた。
- 心拍数が200bpm程度(頻脈)を呈していました
- 心房の興奮波形(P波)が確認されず、心室の興奮波形(QRS波)は幅が広い異常波形が連続して頻発していました。
- これらの所見から心室由来の異常興奮(心室頻拍)と診断しました。
診断
これらの結果より、急性の心筋障害に伴う心不全と心室頻拍が疑われました。確定診断はついていませんが、おそらく心筋炎または心筋梗塞が発生したと推測しています。
心室頻拍(VT)とは?
心室頻拍(Ventricular Tachycardia, VT)は、
心臓の下側(心室)から異常な電気信号が発生し、
正常なリズムを乱すことで持続的な頻脈を引き起こす不整脈です。
通常、心臓の拍動は、心房で作られた電気信号が、規則正しく心室に伝わることで起こっています。
しかし、心室頻拍では、心室そのものが異常な速さで勝手に興奮・収縮してしまうため、
- 心臓全体のポンプ機能が乱れる
- 血液を十分に全身に送れなくなる
- 命に関わるリスクが高くなる という危険な状態になります。
主な症状
心室頻拍が起きると、次のような症状が現れます。
- 動悸(ドキドキが異常に速い)
- ふらつき
- 息苦しさ
- 胸の痛み
- 意識消失(失神)
- 最悪の場合、心停止(心室細動に移行することも)
特に30秒以上続く持続性心室頻拍(Sustained VT)は、突然死のリスクが高いため、すぐに対応が必要です。
猫の場合、外見上の症状が少なく、呼吸の異常や元気のなさで初めて気づかれることが多いです。
治療と管理
初期治療
- 抗不整脈薬:ソタロール
- 強心薬:ピモベンダン
- 強心薬:ドパミンの持続点滴投与
- モニター下で心電図観察
本例は心室頻拍に伴う血行障害をきたして発作が生じていると考え、血圧維持のためにドブタミン・ピモベンダンならびに心室性不整脈を治療する目的でソタロールを投与しました。
翌日には意識レベルや血圧が安定していることからドパミンを休薬し、ピモベンダンとソタロールを継続し、自宅療養としました。
第7日目(図4)

図4: 第2病日の心電図検査所見P波が確認でき(白矢)、QRS波時間も正常化していた。
心電図検査では不整脈が消失していました(図4)。
血液検査ではCPKは正常化し(917→114 IU/l)、
SAAも正常レベルまで低下(27.5→4.21 ug/mL)していました。
活動性と食欲は回復し、意識レベルも正常となっていました。
第38日目(図5)

図5: 第38病日の心電図検査所見第2病日と同様に、P波が確認でき、QRS波時間も正常を維持していた。
症状の再発はなく、経過は良好であることから内服を漸減して経過観察としました。この猫ちゃんはその後、半年が経過していますが再発はありません。
今後の方針
失神発作が出現する際にはホルター心電図検査を行い、ペースメーカー治療が必要になることがあります。
飼い主さんへのアドバイス
この症例の浅く速い呼吸、元気や食欲の低下は、
心室頻拍(命に関わる重度の心室性不整脈)のサインでした。
心室性不整脈は前兆がなく突然発生することがありますが、早期に治療を開始できれば、
症状を改善し、普段通りの生活を取り戻すことができます。
「呼吸が速い」「ふらふらする」「グッタリして反応がない」など、
少しの違和感でも早めに循環器専門の検査を受けることが大切です。
こんな症状があれば、すぐに動物病院へ
✅ 呼吸が浅くて速い
✅ 動きが止まり、ぐったりしている
✅ 食欲が落ちている
✅ 突然倒れる、意識がなくなることがある
✅ 呼びかけに反応が鈍い、ぼーっとしている
これらは心室頻拍や急性心筋障害のサインかもしれません。
早めに診察を受け、心電図検査を含む循環器チェックをおすすめします。
よくある質問(FAQ)
Q1. 完全に無症状でも不整脈はありますか?
A1. はい。見た目にはいつも通りでも、猫は病気を隠す傾向の強い動物なので、不整脈が潜んでいることがあります。
Q2. どんな時に心室性不整脈が疑われますか?
A2. 症状の出ないこともありますが、「元気・食欲がない」、「いつもよりも動きたがらない」時には不整脈が潜んでいることがあります。
Q3. 猫でも心電図検査はできますか?
A3. はい、当院では猫にも対応した心電図モニターを備えており、安全に検査可能です。
Q4. 心室頻拍は治る病気ですか?
A4. 根本的に治るとは限りませんが、適切な薬と管理でコントロールできることが多いです。
まとめ
猫の心室頻拍は、早期発見が命を守るカギ
✅ 猫の呼吸が速い・元気がないときは要注意
✅ 心電図と血液検査で心疾患を早期発見
✅ 心室頻拍は放置すると命に関わる危険な不整脈
✅ 少しでも異変を感じたら、動物病院へ
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