犬の僧帽弁閉鎖不全症|内科治療だけで失神が改善した成功例【症例紹介】
失神を繰り返すチワワ:重度僧帽弁閉鎖不全症に対する内科治療の成功例
はじめに
犬の僧帽弁閉鎖不全症は手術だけではありません
「愛犬が失神を繰り返している」
「肺水腫を起こしたあとから呼吸が苦しそう」
「心臓病と言われたけど、手術は難しいと言われた…」
そんな不安を抱える飼い主さんは少なくありません。
犬の**僧帽弁閉鎖不全症(MMVD)**は進行性の心臓病で、重度になると命に関わります。
今回は、重度の僧帽弁閉鎖不全症+肺高血圧+不整脈という複合的な状態から、内科治療のみで発作ゼロを13ヶ月以上維持している症例をご紹介します。
僧帽弁閉鎖不全症の検査・治療について
症例
犬(チワワ)の重度僧帽弁閉鎖不全症、9歳、去勢♂
他院より紹介受診
かかりつけ医でベナゼプリル、フロセミド、ピモベンダン、アムロジピンを処方されていました。
主訴
1ヶ月前に心不全(肺水腫)を起こし、その治療後から失神するようになったとの主訴で紹介来院しました。
直近では2-3日ごとに失神を繰り返し、8日間で4回の失神を起こしていました。
シグナルメント
元気・食欲:異常なし
体重:3.6kg
心拍数:177回/分
呼吸数:48回/分
呼吸様式:正常
検査所見
検査でわかった心臓と循環の状態

聴診:左側心尖部に収縮期雑音(grade 4/6)を聴取しました。
心電図検査:洞性頻脈であり、RR変動率:は0.9%と顕著な低値を示していました。
胸部X線検査 (図1):心陰影は重度に拡大しており、VHSは11.2でした。
心エコー図検査 (図2 & 3)
長軸像からは僧帽弁逆流と三尖弁逆流が診断され、左心房と左心室の重度な拡大に加え、僧帽弁拡張早期血流(E波)速度が著増していることから重度なうっ血が示唆されました。


また、PISA法から算出した僧帽弁逆流量は83.1ml/m2であり、逆流量は重度でした。左室流出路から計測した心係数は1.35 ml/min/m2であることから低拍出性心不全が示唆されました。さらに、三尖弁逆流速度からは肺高血圧症が示唆されました。
*PISA法の計測方法はこちら
複雑な心機能の計算はスマホアプリ(AniCulator)が便利
診断
重度僧帽弁閉鎖不全症(ACVIMステージC)
肺高血圧症(TRPG 47.9mmHg)
洞不全症候群(後日診断)
本症例では重度な僧帽弁閉鎖不全症によるうっ血性心不全に加えて、肺高血圧症を合併しており、さらに心拍出量が低下していることから失神を繰り返していると考えました。
治療
内科治療の全面見直しと強化
本例では年齢が若く、重度な僧帽弁逆流を伴うことから心臓外科手術を提案しましたが、飼い主様は内科治療を希望されたため、ピモベンダンとアムロジピンを継続し、ベナゼプリルとフロセミドはアラセプリルとトラセミドに変更し、心機能と頻脈の改善を期待してジゴキシンを追加しました。
- アラセプリル:血管拡張による後負荷軽減
- トラセミド:強力な利尿で肺水腫コントロール
- ジゴキシン:洞不全による失神に対して心拍出量確保
- シルデナフィル:肺高血圧症の緩和
すべてを段階的に導入し、身体に無理のない形で治療を最適化。
経過
失神ゼロ、生活の質も改善
第5病日には発作が継続することからホルター心電図検査を実施したところ、約22秒に渡る心停止が認められ洞不全による失神を合併していることが判明しました(図4)。


また、この時期には当初の内服だけでは肺高血圧が軽減していないため、肺血管拡張薬(シルデナフィル)を追加しました。その後の経過は非常に良好であり、発作は軽減し良好に経過しています。現在は初診日から13ヶ月以上が経過していますが、発作や肺水腫の再発はなく体重も4.6kgに回復しています。また、超音波検査では初診時と比べて左心室内径の縮小と僧帽弁逆流量の減少、心係数の増加がみられています(図5)。
投薬開始から13ヶ月以上、失神は1度もなし
- 体重も4.3kg → 4.6kgへ増加
- 再検査では心係数の改善、左室径の縮小、MRの軽減も確認
- 元気・食欲良好、日常生活は問題なく維持できている
飼い主さんへのメッセージ
手術だけじゃない、治療の可能性
本例では初診時に重度な僧帽弁逆流が認められ、心拍出量が低下していたことから心機能の低下を疑いました。臨床徴候からも予後は非常に悪いと予想していました。
重度な心拡大を伴い肺水腫の既往歴がある僧帽弁閉鎖不全症の症例では一般的な予後が不良なため、年齢や基礎疾患の有無を鑑みながら心臓外科手術をお勧めすることがあります。
しかし、
- 年齢や持病により手術が難しい
- 飼い主のライフスタイルや希望により内科管理を選ぶ
という選択も多くあります。
この症例のように、
正しい薬剤の選択と定期的なフォローで、
内科治療のみでも十分にQOL(生活の質)を保つことが可能です。
「もうだめかも」と思わず、
まずは心臓病に強い病院での再評価をおすすめします。
よくある質問(FAQ)
Q1. 僧帽弁閉鎖不全症は薬だけで治りますか?
A1: 完治は難しいですが、症状の緩和と進行抑制は可能です。個体に応じた薬の調整が大切です。
Q2. 肺水腫を何度も起こしています。薬で抑えられますか?
A2: 状態によりますが、ある程度は可能です。利尿薬の調整や併用治療により再発頻度を抑えることを目標にしています。
Q3. 手術を受けられない年齢でも治療はできますか?
A3: はい。むしろ高齢犬にこそ、丁寧な内科治療が求められます。
まとめ
愛犬の心臓病、内科治療でできること
✅ 僧帽弁閉鎖不全症は進行性の心疾患
✅ 手術が難しい症例でも、内科治療で改善できる可能性がある
✅ 適切な薬の選択と定期モニターで、発作を防ぎながら長期管理が可能
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