発作が頻発する犬(症例No.8)
症例
犬(チワワ)、9歳、去勢♂
主訴
1ヶ月前に心不全(肺水腫)を起こし、その治療後から失神するようになったとの主訴で紹介来院しました。直近では2-3日ごとに失神を繰り返し、8日間で4回の失神を起こしていました。
シグナルメント
元気・食欲:異常なし
体重:3.6kg、心拍数:177回/分、呼吸数:48回/分、呼吸様式:正常
かかりつけ医でベナゼプリル、フロセミド、ピモベンダン、アムロジピンを処方されていました。
検査所見
聴診:左側心尖部に収縮期雑音(grade 4/6)を聴取しました。
胸部X線検査 (図1):心陰影は重度に拡大しており、VHSは11.2でした。
心エコー図検査 (図2 & 3):長軸像からは僧帽弁逆流と三尖弁逆流が診断され、左心房と左心室の重度な拡大に加え、僧帽弁拡張早期血流(E波)速度が著増していることから重度なうっ血が示唆されました。
また、PISA法から算出した僧帽弁逆流量は83.1ml/m2であり、逆流量は重度でした。左室流出路から計測した心係数は1.35 ml/min/m2であることから低拍出性心不全が示唆されました。さらに、三尖弁逆流速度からは肺高血圧症が示唆されました。
心電図検査:洞性頻脈であり、RR変動率:は0.9%と顕著な低値を示していました。
診断
本症例では重度な僧帽弁閉鎖不全症によるうっ血性心不全に加えて、肺高血圧症を合併しており、さらに心拍出量が低下していることから失神を繰り返していると考えました。
治療
本例では年齢が若く、重度な僧帽弁逆流を伴うことから心臓外科手術を提案しましたが、飼い主様は内科治療を希望されたため、ピモベンダンとアムロジピンを継続し、ベナゼプリルとフロセミドはアラセプリルとトラセミドに変更し、心機能と頻脈の改善を期待してジゴキシンを追加しました。
経過
第5病日には発作が継続することからホルター心電図検査を実施したところ、約22秒に渡る心停止が認められ洞不全による失神を合併していることが判明しました(図4)。
また、この時期には当初の内服だけでは肺高血圧が軽減していないため、肺血管拡張薬(シルデナフィル)を追加しました。その後の経過は非常に良好であり、発作は軽減し良好に経過しています。現在は初診日から13ヶ月以上が経過していますが、発作や肺水腫の再発はなく体重も4.6kgに回復しています。また、超音波検査では初診時と比べて左心室内径の縮小と僧帽弁逆流量の減少、心係数の増加がみられています(図5)。
コメント
重度な心拡大を伴い肺水腫の既往歴がある僧帽弁閉鎖不全症の症例では一般的な予後が不良なため、年齢や基礎疾患の有無を鑑みながら心臓外科手術をお勧めすることがあります。また、本例では初診時に重度な僧帽弁逆流が認められ、心拍出量が低下していたことから心機能の低下を疑いました。臨床徴候からも予後は非常に悪いと予想していました。しかし、重度な僧帽弁閉鎖不全症の症例の中には本例の様に内科治療でも十分に緩解し、良好な生活を送れるケースがあります。