心雑音の子犬 (症例No.1)
主訴
本例は他院で心雑音を指摘され、精査のためにご来院されました。
症例
犬 (ポメラニアン)、3ヶ月齢、♂
シグナルメント
元気・食欲:異常なし
体重:1.0kg、心拍数:143回/分、呼吸数:48回/分、呼吸様式:正常
検査所見
聴診:前胸部において連続性雑音を聴取しました。
胸部X線検査(図1):軽度な心拡大が認められました。
心エコー図検査(図2)
Bモード検査において、左心房の拡大は認められませんでしたが、左心室内腔は軽度に拡張していました。その他、右心房・右心室 ならびに肺動脈の拡大は認められませんでした。カラードプラ検査では心室内の短絡や大動脈ならびに肺動脈の狭窄は認められませんでしたが、心基底部短軸断面において肺動脈分岐部から肺動脈弁に向かうモザイク血流が認められました。また、連続波ドプラー検査では収縮期ならびに拡張期を通して異常な血流が記録されました。その他、心機能計測においても異常は認められませんでした。
診断
聴診ならびに心エコー図検査から、動脈管開存症と診断しました。
治療
本例では、初診時の体重が1kg未満だったことから、体の成長を待ってから手術を行うことにしました。臨床症状はありませんでしたが、手術までの内科治療としてアラセプリル (1.50mg/kg, 1日1回)とピモベンダン (0.31mg/kg, 1日2回)を開始しました。第53病日には体重が1.36kgにまで増加したことから、開胸下で動脈管の結紮を行いました(図3)。
経過
手術は無事に終了し、術後には肺動脈内のモザイク血流は消失していました(図4)。
手術翌日は安静にしていましたが、全身状態は良好であり合併症もみられないことから手術3日目に退院しています。
コメント
動脈管開存は犬で散発的に発生し、健康診断時の心雑音がきっかけで診断されることの多い疾患です。本例では動脈管の短絡血流が比較的少なく、心臓への負荷も軽度だったので、比較的安全に手術を行うことができました。