肺の影がみつかった猫 (症例No.3)
症例
猫(mix)、推定6歳、避妊♀
主訴
本例は半年前に心雑音を指摘され、胸部X線検査で胸腔腫瘍がみつかったため、精査を希望してご来院されました。
シグナルメント
元気・食欲:異常なし
体重:2.6kg、心拍数:193回/分、呼吸数:42回/分、体温:38.4度
検査所見
聴診: 心雑音は認められませんでした。
胸部X線検査(図1): 前胸部に大きな不透過性亢進像があり、腫瘍性病変の可能性が疑われました。
超音波検査(図2): 心臓よりも頭側の胸腔内に直径約5cmの塊状病変が確認されました。
穿刺吸引細胞診(図2):同部位のFNA検査では異型性の少ない小型リンパ球が認められ、胸腺腫が疑われました。
治療
本例では腫瘍が比較的大きく、まだ比較的若いことから外科的治療を行いました。
手術では肋間を切開して開胸しました。しかし、術創に対して腫瘍が大きくて摘出できないことから、第3-5肋軟骨を切断して術創を拡大することで腫瘍を摘出することができました(図3)。
診断
病理組織検査の結果、胸腺腫と診断されました。
経過
術後の経過は良好であり、呼吸状態や活動性に異常は見られていません。術後の胸部X線検査では再拡張性肺水腫や気胸、出血などの合併症は認められていません(図4)。3日間の入院を経て、無事に退院することができました。
コメント
胸腺腫は前縦隔に発生する比較的稀な、胸腺上皮細胞由来の腫瘍性疾患です。この腫瘍は比較的高齢動物に発症し、高カルシウム血症、重症筋無力症、剥脱性皮膚炎などを併発することがありますが、本例ではこれらの合併症は認められませんでした。術後の経過は比較的良好であり、9頭のネコの胸腺腫に対し外科的切除を行った報告では、術後の中央生存期間は1825日と報告されています(Zitz JC, J Am Vet Med Assoc . 2008)。