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頻発する発作と失神を呈した猫:完全房室ブロックの診断と治療方針【症例紹介】

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猫の発作・失神の原因が完全房室ブロックだった症例と治療の選択肢

はじめに

猫の発作や失神、てんかんとは限りません

「急に倒れた」「けいれんのような発作を繰り返している」
そんなときに疑われるのがてんかんですが、
実は心臓の不整脈が原因となるケースも少なくありません。

今回は、頻繁な発作と失神を呈していた猫が完全房室ブロックと診断された症例を通して、
心疾患由来の発作の診断・検査・治療方針について解説します。

 

症例紹介

症例:雑種猫、13歳、未去勢♂

主訴

本例は昨日から頻繁にひきつけを起こし、失神を繰り返している。
心臓病の精査を目的に紹介来院されました。

シグナルメント

  • 来院時の意識レベルは正常でした。
  • 体重:4.4kg
  • 心拍数:141 回/分
  • 呼吸数:24回/分
  • 呼吸様式:正常

 

検査所見

聴診:心雑音は聴取されなかった。
心拍の調律は不整でした。

胸部X線検査:ラテラル像では顕著な異常所見はみられませんでした(図1)。

血液検査

CPK:1985 U/L⇒著増しており骨格筋または心筋の損傷が示唆されました。
NT-proBNP:653 pmol/L⇒中等度に上昇しており、心筋症や心不全などの心疾患の存在が示唆されました。
SAA:18.26μg/ml⇒中等度に上昇しており、炎症性疾患が示唆されました。

その他、甲状腺ホルモン (2.12 μg/dl)は正常⇒甲状腺機能亢進症ではない。

心エコー図検査:左心房が軽度に拡大しており、うっ血性心不全の徴候が示唆されましたが、明らかな心筋症を示唆する所見は認められませんでした(図2)。

 

心電図検査:心拍数は146 bpmでしたが、P波は欠損しており正常に近いQRS波形と心室性期外収縮波形が交互に出現していました(図3)。

このことから促進型心室固有調律、心室性期外収縮、房室解離を疑いました。

 

診断

急性心筋障害による不整脈

上記の所見から、刺激伝導系の障害による不整脈が原因で発作が頻発していると考えました。血液検査からは心筋炎や心筋虚血などの心筋障害が併発している可能性も疑われます。

 

治療

  • ピモベンダン(強心薬)
  • メキシレチン(抗不整脈薬)
  • プレドニゾロン(抗炎症)

初診時には強心薬のピモベンダンと抗不整脈のメキシレチン、消炎剤のプレドニゾロンを処方し、治療反応をみることにしました。

 

経過

決定的な診断:ホルター心電図で「完全房室ブロック」

第7病日

第7病日にはCPK(426 U/L)とSAA(<3.75μg/ml)が低下しており、心筋・骨格筋の障害・炎症は軽減していました。

しかし、発作は改善しませんでした。

第13病日

第13病日にホルター心電図検査を実施しました。

その結果、心室拍動が突然休止しした際に、P波のみが数秒間持続していることが確認され完全房室ブロックと診断しました(図4)。

                   ホルター心電図検査について

今後の治療方針

内科管理では限界、ペースメーカー治療が必要

現在の内科治療では、発作のコントロールが困難であるため、ペースメーカーの設置手術を検討中
飼い主様と相談し、最終的な治療選択を進めていく段階です。

                   ペースメーカー治療について

飼い主様へのメッセージ

「けいれんかと思ったら、心臓の病気だった…」
そんなケースは少なくありません。
猫の発作・失神には、てんかん以外の原因もあることを知っておいてください。

発作の原因は様々であり、診断には様々な検査を行う必要があります。本例ではホルター心電図検査を通して発作の原因を診断することができました。不整脈によって発作を繰り返し、内科治療によって発作を管理できない場合にはペースメーカー治療が必要になります。

少しでも違和感があれば、**循環器の専門検査(心電図・ホルター検査など)**を受けることをおすすめします。

 

よくある質問(FAQ)

Q1. 猫にもペースメーカー治療ができるんですか?

A1. はい、症例に応じて猫にもペースメーカー治療を行うことがあります。手術には専門的な設備と判断が必要です。

 

Q2. 発作がすべて心臓病のせいとは限らないの?

A2. もちろん、てんかんや脳疾患など他の原因もあります。診断には除外と精密検査の積み重ねが必要です。

 

Q3. ホルター心電図って何をするの?

A3. 24時間装着して心電図を記録する検査です。短時間の心電図では見逃される不整脈を発見するのにとても有効です。詳しくはこちら

 

まとめ

猫の発作や失神は、心臓の精密検査が鍵

✅ 高齢猫での発作=てんかんとは限らない
✅ 完全房室ブロックは内科管理が難しく、ペースメーカー治療が必要
ホルター心電図検査が診断の決め手に
✅ 異常を感じたら、早めの受診を!

 

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Author

院長 獣医師 獣医循環器学会認定医 アジア獣医内科専門医(循環器)

Director D.V.M., Ph.D.Yasutomo HORI

プロフィール

2001年
北里大学獣医畜産学部獣医学科 卒業
2001年4月-
2005年3月
小儀動物病院 勤務
2005年
北里大学獣医畜産学部小動物第3内科 助手
2007年
北里大学獣医学部小動物第3内科 助教
日本獣医循環器学会認定医 取得
2009年
博士(獣医学)取得
2010年
北里大学獣医学部小動物第2内科 講師
2015年
北里大学獣医学部小動物第2内科 准教授
2016年
酪農学園大学伴侶動物内科学IIユニット准教授・循環器科診療科長
2020年
大塚駅前どうぶつ病院 心臓メディカルクリニック 院長
2021年
アジア獣医内科専門医(循環器) 取得

役職

  • 日本獣医循環器学会 理事(2017年~)
  • さっぽろ獣医師会 理事(2019年~2020年)
  • どうぶつ検査センター株式会社 アドバイザー(2020年~)
  • VMN コンサルタント(2020年〜)
  • 動物臨床医学会 循環器分科会企画実行委員 (2024年~)

所属学会

  • 日本獣医循環器学会

大学教員として、犬や猫の心臓病および心不全の診断・治療に関する研究に数多く携わってきました。
また、獣医師向けの各種セミナーで講師を務めるほか、獣医関連の雑誌や書籍の執筆にも精力的に取り組んでいます。
これまでの経験を活かし、飼い主様と動物に寄り添う獣医療を提供いたします。

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