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【命を救った選択】猫の不整脈にペースメーカー治療を行った症例紹介

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はじめに

猫の不整脈、見逃していませんか?

「最近、うちの子が元気がない」「ふらふらする」「倒れる」と感じたことはありませんか?

実はそんなサインに、命に関わる不整脈が隠れていることがあります。

猫の不整脈は、犬に比べて発見が難しく、放置すると突然の心停止を引き起こすこともあります。

今回は、重度の不整脈を抱えていた猫ちゃんに、ペースメーカー治療を行った症例をご紹介します。

 

症例紹介

症例Mix猫、7歳、避妊♀

主訴

  • 最近元気がなく、動きも鈍い
  • 時々、倒れてバタバタする

ということで来院されました。

シグナルメント

  • 体重:7.1kg (BCS: 5/9)
  • 呼吸数:30回/分(正常範囲内)
  • 心雑音:なし

一見すると目立った異常はありませんでしたが、精密検査を行った結果、重大な問題が見つかりました。

 

検査所見

心電図検査でわかった異常
図1. 院内の心電図検査所見 高度房室ブロックと2段脈がみられる

心電図を確認したところ──

  • 正常な心拍リズムが乱れており、脈が飛ぶような不整脈が確認されました。
  • 心房の興奮(P波)に続く、心室の興奮(QRS波)が欠落しており
  • P波が連続して2回心室に伝導されていないことから、高度房室ブロックが診断されました(図1)。
図2. ホルター心電図検査所見 発作性に完全房室ブロックが生じ、QRS波が長時間出現していない。
  • さらに追加検査として、ホルター心電図検査を実施したところ、最大で13-15秒の心停止(心臓の活動が一時的に停止する現象)が確認されました(図2)。

このままでは、突然の心停止リスクが非常に高い状態だと判明しました。

診断

高度の徐脈性不整脈

本例は、心臓のリズムをつくる働きがうまくいかない徐脈性不整脈の「発作性完全房室ブロック」と診断されました。

 

徐脈性不整脈とは?

通常よりも心拍数が著しく遅くなる状態です。
酸素や栄養が全身に運ばれず、主な症状として

  • 疲れやすい
  • 元気がない
  • 突然倒れる (Adams-Stokes発作と呼ばれる失神発作の原因となることがある)
    などの症状が出ます。

悪化すると、命に関わる危険性が高まります。

 

治療

内科治療

本例では最初に心拍数を増やす効果のあるお薬(シロスタゾール)を使って内科治療を開始しました。これによって発作の頻度は少し改善したように見えましたが、その後の定期検査でも不整脈が確認され、内科治療だけでは改善が難しいと判断しました。

 

外科治療

このことから、**ペースメーカー(心臓を規則的に動かす装置)**を設置する治療を選択しました。

ペースメーカー手術とは?
図3. ペースメーカー手術中の様子
  • 小さな機械を体内に埋め込み、心臓に電気信号を送ることで、正常な心拍リズムを保ちます。これにより、低下していた心拍数を正常に戻し、
    体全体に血液をしっかり送ることができるようになります。
  • 手術は全身麻酔下で行います。

 

手術の流れと注意点

  1. 全身麻酔下で、胸を開けて心臓に直接に電極を縫い付け(図3)、本体は腹部に固定
  2. 心臓の動きに合わせて最適な刺激を送り出す設定を行う
  3. 術後は数日間入院し、ペースメーカーの動作確認と回復を管理

手術にはリスクも伴いますが、
不整脈による突然死リスクと比べれば、圧倒的に安全性の高い治療選択です。

 

その後の経過・フォローアップ

手術は無事に成功し、術後すぐに心拍数も安定しました。
数日間の入院を経て、元気に退院することができました!

現在は、

図4. ペースメーカー手術後の心電図検査所見 心臓の調律は一定に調整されている。
  • 不整脈が消失し(図4)
  • 食欲も回復
  • 活動量も増加

と、普段通りの生活を取り戻しています。

ペースメーカー治療は定期的なメンテナンス・動作確認が必要ですが、
基本的には普通に生活することが可能です。
本例は、今は元気に穏やかな毎日を過ごしています。

 

飼い主さんへのメッセージ

猫の不整脈は、目に見える症状が少ないため発見が遅れがちです。
「なんとなく元気がない」「ふらふらする」「倒れる」など、の異変に気づいたら、早めにご相談ください。

早期発見・早期治療が、愛する家族の命を守る大きな力になります。

 

まとめ

ペースメーカーで猫の命を救う選択

✅ 猫の不整脈は発見が難しいが、放置は命に関わる
ペースメーカー治療で、正常な心拍を取り戻すことができる
✅ ちょっとした元気の低下も、すぐに動物病院へ相談を!

 

よくある質問(FAQ)

Q1. 猫にもペースメーカーを入れることができるんですか?

はい、最近では猫にもペースメーカー治療が行われるようになりました。
症例に応じて適応を慎重に判断します。

Q2. ペースメーカー手術は危険ではありませんか?

全身麻酔を伴うためリスクはゼロではありませんが、
手術管理を徹底することで安全性は高くなっています。
当院では、術前検査・麻酔管理にも細心の注意を払っています。

Q3. ペースメーカーを入れた後、普段通りに生活できますか?

基本的には普段通り生活可能です。
ただし、ジャンプなどの激しい運動や、強い衝撃には注意が必要です。

 

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Author

院長 獣医師 獣医循環器学会認定医 アジア獣医内科専門医(循環器)

Director D.V.M., Ph.D.Yasutomo HORI

プロフィール

2001年
北里大学獣医畜産学部獣医学科 卒業
2001年4月-
2005年3月
小儀動物病院 勤務
2005年
北里大学獣医畜産学部小動物第3内科 助手
2007年
北里大学獣医学部小動物第3内科 助教
日本獣医循環器学会認定医 取得
2009年
博士(獣医学)取得
2010年
北里大学獣医学部小動物第2内科 講師
2015年
北里大学獣医学部小動物第2内科 准教授
2016年
酪農学園大学伴侶動物内科学IIユニット准教授・循環器科診療科長
2020年
大塚駅前どうぶつ病院 心臓メディカルクリニック 院長
2021年
アジア獣医内科専門医(循環器) 取得

役職

  • 日本獣医循環器学会 理事(2017年~)
  • さっぽろ獣医師会 理事(2019年~2020年)
  • どうぶつ検査センター株式会社 アドバイザー(2020年~)
  • VMN コンサルタント(2020年〜)
  • 動物臨床医学会 循環器分科会企画実行委員 (2024年~)

所属学会

  • 日本獣医循環器学会

大学教員として、犬や猫の心臓病および心不全の診断・治療に関する研究に数多く携わってきました。
また、獣医師向けの各種セミナーで講師を務めるほか、獣医関連の雑誌や書籍の執筆にも精力的に取り組んでいます。
これまでの経験を活かし、飼い主様と動物に寄り添う獣医療を提供いたします。

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