疾患の解説

心膜切除

【犬猫の心膜切除】適応症・手術方法・術後ケア・予後を獣医師が徹底解説

 

はじめに

犬や猫の心臓周囲には「心膜」と呼ばれる膜状組織があり、心臓を保護しています。しかし、心膜に異常が生じると心臓の機能が障害され、命に関わる状態に至ることもあります。心膜切除(心膜摘出術)は、こうした状況に対処するために行われる外科的治療法です。本記事では、最新の獣医療文献を参考にしながら、心膜切除の適応症、手術方法、術後ケア、予後について詳しく解説します。

 

心膜切除(心膜摘出術)とは?

心膜の役割と心膜疾患

心膜は心臓を外部の衝撃や感染から守り、適度な潤滑を提供する役割を担います。しかし、心膜液の過剰貯留(心膜液貯留)や心膜の肥厚・癒着(収縮性心膜炎)が起こると心臓の拡張が妨げられます。すると心臓に還流する血流量が減少するため、心拍出量も低下し、結果として心不全などの重篤な状態に陥ります[1]。

心膜切除とはどんな手術?

心膜切除とは心膜の一部または全体を取り除く外科手術です。手術の目的は、心膜を切除することで、心臓の拡張を回復させて、心臓の正常な機能を回復させることです。

 

心膜切除の適応症

心膜切除が必要となる主な疾患

  • 心膜液貯留による心タンポナーデ(原因問わず)
  • 収縮性心膜炎
  • 心膜腫瘍(血管肉腫、中皮腫など)
  • 原因不明の反復性心膜液貯留(特発性)

特に心膜液貯留を繰り返す場合には、心膜穿刺による排液では根治できず、心膜切除が推奨されます[2]。

 

心膜切除の手術方法

心膜切除術の流れ

  • 術前検査(心エコー図検査、胸部X線、血液検査)
  • 全身麻酔下で開胸(胸骨正中切開または肋間開胸)
  • 心膜の部分切除または全切除
  • 胸腔ドレーンを設置し閉胸

開胸手術と胸腔鏡手術の選択は症例の状態や施設設備によります[3]。

 

術後管理と予後

心膜切除後のケアと予後

  • 術後の酸素吸入管理と疼痛緩和
  • 胸腔ドレーン管理と排液モニタリング
  • 感染予防(抗生剤投与)

 

予後について

  • 特発性心膜液貯留や軽度の収縮性心膜炎に対しては、心膜切除後の長期予後は非常に良好です。
  • 腫瘍性疾患(血管肉腫など)による心膜異常では、原疾患の進行により予後は厳しくなる傾向にあります[4]。

 

よくある質問(FAQ)

Q1:心膜切除後も再発することはありますか?

A1:心膜自体を切除するため、心膜液の貯留は基本的に再発しません。ただし、腫瘍や心臓そのものの異常がある場合は別途注意が必要です。

 

Q2:犬猫にとって心膜がなくなることに問題はありませんか?

A2:通常の生活に大きな支障はありません。心膜は心臓を保護する役割を持ちますが、切除後も心臓機能に大きな影響はありません[1]。

 

Q3:術後の管理期間はどれくらい?

A3:通常、入院は3〜4日程度。術後も定期的な経過観察が必要です。

 

まとめ

心膜切除は、犬猫の命に関わる心膜疾患に対する重要な外科治療法です。適切なタイミングでの診断・手術介入が、動物たちの長期予後を大きく左右します。心膜液貯留や呼吸困難の兆候が見られた場合には、早期に心臓専門の獣医師に相談しましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

参考文献

[1] Ware WA. “Pericardial diseases.” In: Ettinger SJ, Feldman EC, eds. Textbook of Veterinary Internal Medicine. 7th ed.

[2] MacDonald KA. “Pericardial effusion and cardiac tamponade.” Vet Clin North Am Small Anim Pract. 2017.

[3] Singh MK, et al. “Thoracoscopic pericardiectomy in dogs.” Vet Surg. 2002.

[4] Buchanan JW. “Tumors of the pericardium.” Vet Clin North Am Small Anim Pract. 1977.

 

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Author

院長 獣医師 獣医循環器学会認定医 アジア獣医内科専門医(循環器)

Director D.V.M., Ph.D.Yasutomo HORI

プロフィール

2001年
北里大学獣医畜産学部獣医学科 卒業
2001年4月-
2005年3月
小儀動物病院 勤務
2005年
北里大学獣医畜産学部小動物第3内科 助手
2007年
北里大学獣医学部小動物第3内科 助教
日本獣医循環器学会認定医 取得
2009年
博士(獣医学)取得
2010年
北里大学獣医学部小動物第2内科 講師
2015年
北里大学獣医学部小動物第2内科 准教授
2016年
酪農学園大学伴侶動物内科学IIユニット准教授・循環器科診療科長
2020年
大塚駅前どうぶつ病院 心臓メディカルクリニック 院長
2021年
アジア獣医内科専門医(循環器) 取得

役職

  • 日本獣医循環器学会 理事(2017年~)
  • さっぽろ獣医師会 理事(2019年~2020年)
  • どうぶつ検査センター株式会社 アドバイザー(2020年~)
  • VMN コンサルタント(2020年〜)
  • 動物臨床医学会 循環器分科会企画実行委員 (2024年~)

所属学会

  • 日本獣医循環器学会

大学教員として、犬や猫の心臓病および心不全の診断・治療に関する研究に数多く携わってきました。
また、獣医師向けの各種セミナーで講師を務めるほか、獣医関連の雑誌や書籍の執筆にも精力的に取り組んでいます。
これまでの経験を活かし、飼い主様と動物に寄り添う獣医療を提供いたします。

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