疾患の解説

猫のフィラリア症

はじめに

フィラリア症とは中間宿主である蚊(アカイエカやヒトスジシマカなど)によって媒介される伝染病であり、犬糸状虫(Dirofilaria immitis)が終宿主であるイヌ科の動物の心臓や肺動脈に寄生する疾患ですが、まれに猫にも感染します。ただし、猫の体内に侵入したフィラリアのほとんどは死滅し、2-7%しか成虫に成長できません。したがって、多くの場合で成虫の寄生数はわずかに1~2匹で単性寄生となります[1]

感染環

 

症状

ほとんどの猫はフィラリアに感染しても無症状であるか、一過性に軽度な症状がみられる程度です。猫のフィラリア症の臨床徴候は、
1)肺血管にフィラリア成虫が侵入した時期、2)成虫が死亡した時期の2つの段階で発症し、次のような徴候を引き起こします。

  • 間欠的な嘔吐
  • 食欲不振
  • 元気消失
  • 呼吸困難(重症例)
  • 突然死

猫がフィラリアに感染してから約4ヶ月後には成虫が肺動脈に侵入し、肺動脈の炎症に伴う呼吸器症状を引き起こします。この時期の症状には一般的に持続性の頻呼吸、断続的な咳、努力性呼吸などがみられます。また、未成熟虫しか寄生していなくても肺病変に起因する呼吸器徴候が現われることがあり、犬糸状虫随伴性呼吸器疾患(HARD)と呼ばれています。この他に腹水、胸水、乳び胸、気胸、発作、失神などが出現することもあり、非常にまれですが、突然死を起こすこともあります。

猫では少数寄生や未成熟虫の寄生でも、犬に比べ強い呼吸器症状が現れる背景には、フィラリアに共生している「ボルバキア」と呼ばれる細菌や猫自体のフィラリアに対する過剰な免疫反応が関係しているのかもしれません。

診断

●心エコー図検査
これらの検査はフィラリア症による心不全や呼吸器症状の評価に有効です。特に心エコー図検査ではイコールサイン(犬のフィラリア症を参照)という特徴的な所見があれば診断が可能ですが、この所見がなくてもフィラリア寄生を除外することはできません。

●血液検査
フィラリア症の感染を調べるためには以下のような血液検査があります。
 直接法: 顕微鏡でミクロフィラリアの存在を調べます。
 抗原検査: フィラリアに含まれる特徴的な物質を調べる検査です。
 抗体検査: フィラリアに対して猫が産生する抗体(免疫反応)を調べる検査です。

猫のフィラリア症は少数寄生がほとんどで、雄か雌の単性寄生の場合はミクロフィラリアを産まないために直接法では診断できません。抗原検査は診断精度の高い検査であり、ある報告ではフィラリア感染猫の79-86%で陽性になりましたが、少数寄生(1隻)の場合は偽陰性となります[2]。抗体検査の診断精度は抗原検査より低くいため、結果が陰性でも感染を否定することはできません[2]。つまり、猫のフィラリア症を「正確に診断する方法はない」のが現状です。

 

予防

猫のフィラリアは診断が困難な上に突然死のリスクがあるため、確実に予防しておくことが重要です。

*本院では4月から12月までの予防を推奨しています。

1. 外気温が14℃を超え始めたら予防開始
外気温が14℃を超え始めたらフィラリア予防を開始する必要があります。フィラリア症は地域によりますが、東京では5月頃から11月頃まで感染する危険があります。特に、ベクターとなる蚊の活動が活発な夏場は感染しやすくなるため確実な予防が必要です。

2. 室内飼育でも感染のリスク
ある報告ではフィラリア症と診断された猫の4頭中に1頭は室内飼育されていました[3]。外に出なくても蚊は室内に侵入するため、予防が必要です。

3. 1ヶ月毎の定期的な予防が不可欠
フィラリア予防といっても、実際には猫の体内に侵入したフィラリア幼虫をお薬で駆除しています。つまり、一度駆除しても予防を怠れば何度でも感染してしまいます。経口薬やスポットオンタイプの予防薬はいずれも第4期幼虫までに有効なので、30日間隔で投与しないと幼虫が成長し予防効果が低下します[4]。また、猫では幼虫しか寄生していなくても犬糸状虫随伴性呼吸器疾患を発症することがあるため、定期的な予防が不可欠となります。

4. ライフスタイルに合った予防薬の選択
現在では錠剤の他に、注射薬や嗜好性を高めたチュアブルなど様々な予防薬があり、生活スタイルやペットの体質に合った予防法を選ぶことができます。

イベルメクチン: 24μg/kg
ミルベマイシンオキシム: 2.0mg/kg
モキシデクチン: 1.0mg/kg
セラメクチン: 6mg/kg

 

治療

外科的治療

手術は肺動脈基部・右心系に虫体が存在する症例が適応となります。猫ではほとんどが少数寄生であり、外科的治療の対象になることは滅多にありません。

 

内科的治療

1. 成虫駆除
メラルソミン: 現在は国内で承認されておらず、猫では少量でもショック死するリスクがあるため推奨されません[1]

2. イベルメクチン
イベルメクチン(24μg/kg)を毎月投与した場合、2年後には無治療の猫と比較して、ミクロフィラリアを65%減らすことが報告されています。

3. ステロイド剤(プレドニゾロン)
フィラリア寄生による炎症や咳を抑えるため、ステロイド剤を用いた対症療法を行います[1]
①2mg/kg/日で開始し、10-14日間は継続する。
②1日おきに5mg/kgまで2週間かけて漸減し、休薬する。
③症状が再発したら再開する。

4. 気管支拡張薬
ステロイド剤で症状が改善しない場合に検討します。
アミノフィリン: 4-6 mg/kg, bid
テオフィリン: 25mg/kg, sid
アルブテロール吸入薬: 1回吸入12時間ごと

5.ドキシサイクリン
ボルバキアの治療として犬と同様に有効かもしれませんが、猫への有効性は不明です。

 

予後

予後は比較的良好であり、ほとんどの猫は無徴候のまま自然治癒します。一方で、フィラリア成虫が死亡した時期にショックを起こし突然死することがあります。

 

参考文献

  1. Current Feline Guidelines for the Prevention, Diagnosis, and Management of Heartworm (Dirofilaria immitis) Infection in Cats. American Heartworm Society 2020.
  2. Berdoulay P, Levy JK, Snyder PS, et al. Comparison of serological tests for the detection of natural heartworm infection in cats. J Am Anim Hosp Assoc 2004;40:376-384.
  3. Atkins CE, DeFrancesco TC, Coats JR, et al. Heartworm infection in cats: 50 cases (1985-1997). J Am Vet Med Assoc 2000;217:355-358.
  4. Paul AJ, Todd KS, Jr., Sundberg JP, et al. Efficacy of ivermectin against Dirofilaria immitis larvae in dogs 30 and 45 days after induced infection. Am J Vet Res 1986;47:883-884.

 

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