ホルター心電図検査
目次
【犬猫のホルター心電図検査】失神・ふらつきの原因を探る精密検査を解説

はじめに
犬や猫においても、「突然の失神」「ふらつき」といった症状は重大な心疾患のサインである場合があります。その原因を正確に突き止めるために役立つ検査が、「ホルター心電図検査(24時間心電図)」です。
特に発作性不整脈は、短時間の心電図検査では検出が困難なため、ホルター心電図が重要な役割を果たします。この記事では、ホルター心電図検査とは何か、目的、適応、実施方法、結果の解釈、どんな犬猫に必要なのか、検査の流れや注意点まで、獣医循環器専門医監修のもと詳しく解説します。
大切な家族の命を守るために、検査の意義と必要性を正しく理解しておきましょう。
犬猫のホルター心電図とは?
ホルター心電図は24時間心電図ともいわれ、24時間以上にわたって連続的に心電図を記録し、日常生活中に発生する不整脈や心拍変動を捉えるための検査法です[1]。日常生活を送りながら心拍の変化を1日中記録し、突然発生する不整脈の有無を記録する検査です。
通常の心電図との違い
一般的な院内の心電図検査では短時間(数秒~数分)しか観察しないため常に出現している不整脈の検出は可能ですが、発作的に出現する不整脈を見逃す可能性があります。ふらつきや失神がみられる場合には症状の出るタイミングに一致した心電図を記録・解析しなければ病気の有無を判定できないのです。
24時間モニタリングのメリット

ホルター心電図では長時間にわたり心電活動を観察できるため、日常生活を送りながら間欠的・発作的に発生する不整脈をより高い精度で診断することが可能となります。
ホルター心電図検査の適応
以下の臨床症状が見られる犬猫には、ホルター心電図検査が推奨されます。
- ふらつきや失神などの症状を繰り返す場合
- 運動不耐性、疲労感
- 不整脈の発生回数・頻度、重症度の評価
例) 洞不全症候群、高度房室ブロック、心室性期外収縮、心房細動など - 抗不整脈薬の効果判定
- 高リスク犬種(ドーベルマン、ボクサーなど)のスクリーニング[2]
どんな病気の診断に役立つか
- 洞不全症候群
- 高度房室ブロック
- 洞停止
- 心室性期外収縮
- 心房細動など
ホルター心電図検査の方法
1.検査前に胸部の被毛を一部刈毛
電極を装着する部位(胸部)の毛を剃毛し、アルコール綿で拭き、皮膚の汚れを落とします(図1)。こうすることで、筋電図が入りにくく、きれいな波形が記録できます。
2.電極を装着する
毛刈りした毛刈りした部位に電極を装着します。装着時は、皮膚と電極をしっかり密着させるのがポイントです(図2)。
電極と誘導コード、記録装置を接続し、落ちないようにテープを巻いて体に固定します(図3)。

3.小型レコーダーを体幹部に固定し、通常の生活を送る(検査)
普段どおりの生活を送りながら、心電図を記録します。
検査中にふらつきや失神などの症状が出現した場合は、日時を記録して下さい。
検査機器にイベントボタンがある場合は、ボタンを押すと症状があった時間として記録されます。
検査期間は最短で2∼3日ですが、発作が出現しない場合には最大で7日間ほど観察が必要になります。
4.解析
結果解析には1週間ほどかかります。ただし、失神頻度が多い場合や迅速対応が必要な場合は、2∼3日で解析いたします。
検査中の注意事項
検査期間
発作の発生頻度によりますが、早くて2∼3日、長くて7日ほど記録を行います。ポイントは検査期間中に失神・ふらつきなどの症状が発生し、この時の心電図記録が得られると診断に繋がります。
日常生活の注意点
特別な指示がない限り、食事、お散歩、内服は継続してください。
発作時の対応
ふらつきや失神などの発作が出現した場合は…
- ペットが怪我をしないように安全な場所と姿勢を確保します。
- 発作が自然回復するまで安静にしてください。発作は数秒から1分程度で治まります。
- 発作の日時を記録して下さい。
検査機器にイベントボタンがある場合は、ボタンを押すと発作があった時間が記録されます。
装置の脱落
検査中に電極が外れてしまうと検査結果が得られないため、検査装置をぶつけたりしないように注意してください。検査機器が外れた場合には再度、装着が必要となります。
入浴、シャワー
シャンプーや水浴びは検査機器の故障の原因になるため控えてください。
皮膚トラブル
心電パッドによる皮膚障害や電極かぶれが生じる可能性があります。症状がひどい場合には別途治療が必要になります。
検査後の診断と対応
解析結果に基づき、以下のような診断・対応が行われます。
診断:発作性心房細動、心室性期外収縮(VPC)、高度徐脈の検出
対応:必要に応じて抗不整脈薬の導入、ペースメーカー治療の検討
根本原因(心筋症、心筋炎など)の精査へ移行
ホルター心電図検査の限界と留意点
- 検査期間内に不整脈が発生しない場合、診断に至らない可能性
- 電極接着状態が不安定な場合には記録不良となることがある
- 長期間モニタリング(48時間、72時間)が必要なケースもある[3]
まとめ
犬猫のホルター心電図検査は、発作性不整脈の診断や治療効果判定に不可欠な検査です。失神やふらつきといった症状が見られる場合、早期に本検査を受け、適切な治療介入を図ることが、愛犬・愛猫の命を守る上で極めて重要です。
犬猫のホルター心電図検査に関するQ&A(FAQ)
Q1:犬や猫にホルター心電図検査は本当に必要?
A1:
短時間の心電図検査では発見できない発作性不整脈が原因の失神・ふらつきの場合、ホルター心電図が極めて重要です。診断精度を大きく高め、適切な治療方針を決める助けになります。
Q2:ホルター心電図検査中に普段通り過ごしても大丈夫?
A2:
基本的に普段通りの生活を送れます。ただし、シャンプーや激しい運動は避け、装置が外れないよう注意してください。特別な指示がある場合は獣医師の指示に従いましょう。
Q3:犬猫が検査中に倒れたらどうすればいい?
A3:
落ち着いて安全な場所に移動し、自然回復を待ちましょう。必ず発作の日時を記録し、検査機器のイベントボタンがある場合は押してください。緊急の場合は速やかに動物病院へ連絡してください。
Q4:ホルター心電図の結果が出るまでどれくらいかかる?
A4:
通常は解析に約1週間かかります。失神頻度が高い、緊急対応が必要な場合は、数日で結果を報告できることもあります。
症例紹介
症例1:犬の僧帽弁閉鎖不全症|内科治療だけで失神が改善した成功例
症例2:頻発する発作と失神を呈した猫:完全房室ブロックの診断と治療方針
症例3:【命を救った選択】猫の不整脈にペースメーカー治療を行った症例紹介

参考文献
[1] Tilley LP. “Essentials of Canine and Feline Electrocardiography.” 3rd ed. Williams & Wilkins, 1992.
[2] Calvert CA. “Ambulatory electrocardiography in dogs and cats.” Vet Clin North Am Small Anim Pract. 1998.
[3] Santilli RA, Moise NS, Pariaut R, Perego M. “Electrocardiography of the Dog and Cat: Diagnosis of Arrhythmias.” 2nd ed. CRC Press, 2018.