ペースメーカー治療
目次
ペースメーカー治療とは
犬猫の心臓は1 日に約17 万~21 万回も拍動しますが、心臓が効率よく機能するためには、心筋細胞が順序正しく一定のリズムで興奮収縮する必要があります。このため、心臓には心筋細胞の他にも一定のリズムで電気刺激を生成するペースメーカー細胞や電気刺激を心臓全体へ伝導する経路があり、これらを刺激伝導系と呼んでいます。ペースメーカー細胞は前大静脈と右心房の接合部に集まっており、この部分を洞房結節と呼びます。洞房結節は自動的に一定のリズムで電気刺激を生成し心臓全体へ送り出すため、心臓は効率よく機能することができます。
適応症
PMI は以下に示す症候性の徐脈性不整脈が主な適応となります。特に、徐脈性不整脈によって失神やふらつきなどの症状が併発している場合には早急な治療が必要となります。
- 洞不全症候群
- 房室ブロック
- 心房静止・停止
治療の目的
徐脈性不整脈では心拍数が極端に減少するため、運動時に疲れやすく、重度な場合(5秒以上の心停止)には失神やふらつきがみられます。
PMIの目的は心拍数を維持し、徐脈を原因とする症状を改善することです。
ペースメーカーの構造
ペーシングシステムはペースメーカー本体とリードで構成されます(図1)。
本体にはバッテリーと電気回路が内蔵されており、重さは20gほどです。リードの先端部分には電極があり、電極が心臓に接することで心臓を刺激します。
ペースメーカーの植込み方法
本院では手術によってペースメーカーを体内に植込みます。
手術では全身麻酔を行い、開胸により心臓の表面に電極を直接固定し、ペースメーカー本体は腹部に植込みます。手術時間は約2時間ですが、術後にはペースメーカー本体が正常に機能しているか確認すると共にペーシングの条件を設定します。手術後は2~3日間の入院が必要となります。
定期検査
退院後はペーシングの記録、電池の消耗具合、リードに異常がないかを調べるため定期的に検査を行います。目安として最初の1年間は1週間後、1、3、6、12ヶ月後に検査を行い、その後は1年毎に検査を行います。
PMIの注意点
◯ PMI は不整脈に起因する症状の解消を目的としており、全ての心疾患の発生は予防できません。PMIの数年後に弁膜症や心筋症が発生し、心不全を起こす事例もあります。
◯ 以下の事例では再手術になる可能性があります。
- ペースメーカー本体やリードなど術野の感染が生じた場合
- 電池の消耗が激しい場合
- リードに異常があった場合
◯ 死亡後は本体を回収する必要があります。死亡後に剖検ができない場合にはMPIは実施できません。
PMIの予後
一般的にPMI 治療を受けた犬の予後は良好であり、1年生存率は70~85%、3年生存率は45~65%と報告されています[1]-[3]。しかし、うっ血性心不全を併発している場合の予後は悪く、半数以上が1年以内に死亡しています[1]。
参考文献
- Oyama MA, Sisson DD, Lehmkuhl LB. Practices and outcome of artificial cardiac pacing in 154 dogs. J Vet Intern Med. 2001;15(3):229-39.
- Wess G, Thomas WP, Berger DM, Kittleson MD. Applications, complications, and outcomes of transvenous pacemaker implantation in 105 dogs (1997-2002). J Vet Intern Med. 2006;20(4):877-84.
- Johnson MS, Martin MW, Henley W. Results of pacemaker implantation in 104 dogs. J Small Anim Pract. 2007;48(1):4-11.