疾患の解説

肺動脈狭窄症

目次

概要

肺動脈狭窄症は先天性心疾患の一つで、犬の先天性心疾患の中では比較的発生頻度の高い疾患(20~30%)です[1][2]
肺動脈狭窄症は生まれつき肺動脈弁付近に狭窄があるため、右心室から肺に流れる血流が悪くなっています。この疾患では血液が右心室から駆出されにくいため、右心室に大きな負担がかかってしまいます。軽度な狭窄であれば無治療でも困ることはありませんが、重度な狭窄では右心室内に血液がうっ滞し、うっ血性心不全を引き起こすことがあります。
当院では主にカテーテルを用いた処置と開胸手術を併用して治療を行っています。

 

原因

原因は未だ解明されていません。

 

好発品種や好発年齢は?

  • ミニチュア・シュナウザー[3]
  • フレンチ・ブルドッグ[4]
  • トイ・プードル
  • チワワ
  • ポメラニアン
  • ダックスフント
  • ボクサー[3]など
肺動脈狭窄症は生まれつきの疾患なので、多くは幼齢期の健康診断でみつかります。
また、本疾患は雄に多く発生する傾向があります[5][6]

 

検査・診断

1. 身体検査所見

肺動脈狭窄症では前胸部を最強点とする収縮期駆出性雑音が聴取されます。
健康診断時に心雑音が聴取されれば、本疾患を疑う必要があります。
一般的な症状としては運動不耐や発育不良などがみられますが、軽度から中等度の狭窄ではほとんど気が付きません。
重度な狭窄では失神、チアノーゼ、腹水などがみられます[3][5]

 

2. 胸部X線検査

ラテラル像・背腹像では狭窄部の重症度に応じた右心拡大を確認することができ(図1)、背腹像では主肺動脈の突出が認められることがあります。この他、本疾患による合併症(うっ血肝や腹水)の有無などを確認することが出来ます。

 

図1.肺動脈狭窄症の犬の胸部X線画像
ラテラル像(左図)では顕著に拡大した心陰影が認められます。腹背像(右図)では主肺動脈の突出(赤点線)が認められます

 

3. 心エコー図検査

本疾患では肺動脈の狭窄部を通過する血流速度を測定し、2.0 m/s以上の場合に確定診断ができます (図2)。また、狭窄部の最大血流速度から肺動脈狭窄の重症度を推定します。重度な狭窄の場合には右心室内腔の拡大と右心室壁の肥厚が認められます[7]

図2.肺動脈狭窄症の犬の心エコー図検査画像
カラードプラー検査(左図)では収縮期に肺動脈を通過する血流にモザイクパターンが認められます。(RA: 右心房, RV: 右心室, Ao: 大動脈, PA: 肺動脈)
連続波ドプラー検査(右図)では約8m/sの血流速度が確認され、重度な狭窄であることが示唆されます。※正常な血流速度は約1.0m/sです。

 

4. 心臓バイオマーカー検査
心筋細胞から分泌される特殊な物質の血中濃度を測定することで、肺動脈狭窄に伴う心臓負荷を評価できる検査です。
特に血中NT-proBNP濃度は肺動脈狭窄症の重症度に応じて上昇しており、ドプラー検査で推測した肺動脈弁圧較差と有意な相関を示しています(図3)[8]

 

治療

肺動脈狭窄の重症度は狭窄部の最大血流速度から推定し、以下の様に治療方針を判断しています。

 

内科療法

無症候であっても重度な狭窄の症例では内科療法を勧めており、一般的な心臓病と同様に血管拡張薬、利尿薬、強心薬を用います。

無症状の場合
  • β遮断薬:心臓の過剰な興奮を抑制することで、狭窄を緩和します。
  • 降圧剤(ACE阻害剤など):血管を拡張させて血圧を下げることによって、血液が循環しやくなります。
うっ血性右心不全を発症している場合
  • 利尿剤:尿を排出させることで全身の血液量を減らし、心臓の負担を軽くします。
  • 強心薬(ピモベンダン):血管拡張作用と強心作用を併せ持ち、血液循環を改善させます。心不全症状の軽減に有効です。

 

外科治療

肺動脈狭窄症を根治することは困難ですが、外科治療は心臓にかかる負担を大幅に軽減することができます。
また、症状が出ていなくても早期に手術治療することで、本疾患の予後を大幅に改善することが可能です。
本疾患は狭窄部位によって弁下部、弁性、弁上部狭窄の3つに分けられています[1][9]
この中では弁性狭窄の発生頻度が最も高く、弁性狭窄は2つのタイプに分類されています[5][10]。狭窄のタイプによって治療法が異なります。

 

バルーン弁拡張術
バルーン弁拡張術はバルーンを用いて肺動脈弁の狭窄部位を拡張させる治療法で、1型肺動脈狭窄が適応となります(図4)。
本治療法は手術侵襲が少なく、比較的容易に狭窄を軽減させることが可能ですが、カテーテルの大きさに制約があるため、体重2~10kgの犬が適応となります。

開胸手術(ブロック法)

本治療法は開胸下で手術器具を用いて肺動脈を広げる手術です。
バルーン弁拡張術が適応外の1 型肺動脈狭窄(2kg未満または10kg以上の犬)において推奨しています。

 

右室流出路拡張術

本2型肺動脈狭窄、弁上部・弁下部狭窄の場合は人工心肺装置を用いた体外循環下で、狭窄部を拡張させる手術が適応となります[11]
*本院では右室流出路拡張術を行っておりませんが、ご希望の患者様には専門施設をご紹介しております。

 

予後

無徴候の犬やバルーン弁拡張術を実施した犬の予後は比較的良好ですが[6]、若齢時に症状がみられる場合や重度な狭窄(推定圧較差>60mmHg)は予後を悪化させる要因となります[4][6][9]。従って、本疾患がみつかった場合には早期の治療をお勧めしています。

本院では専門医が詳細に心臓の状態を精査し、適切な治療法をご提案させて頂きます。
本疾患について気になることやご心配がある場合は、お気軽に本院にご相談ください(ただし、電話相談のみは受け付けていません)。

 

参考文献

  1. Oliveira P, Domenech O, Silva J, et al. Retrospective review of congenital heart disease in 976 dogs. J Vet Intern Med 2011;25:477-483.
  2. Tidholm A. Retrospective study of congenital heart defects in 151 dogs. J Small Anim Pract 1997;38:94-98.
  3. Bussadori C, DeMadron E, Santilli RA, et al. Balloon valvuloplasty in 30 dogs with pulmonic stenosis: effect of valve morphology and annular size on initial and 1-year outcome. J Vet Intern Med 2001;15:553-558.
  4. Chetboul V, Damoiseaux C, Poissonnier C, et al. Specific features and survival of French bulldogs with congenital pulmonic stenosis: a prospective cohort study of 66 cases. J Vet Cardiol 2018;20:405-414.
  5. Estrada A, Moïse NS, Erb HN, et al. Prospective evaluation of the balloon-to-annulus ratio for valvuloplasty in the treatment of pulmonic stenosis in the dog. J Vet Intern Med 2006;20:862-872.
  6. Locatelli C, Spalla I, Domenech O, et al. Pulmonic stenosis in dogs: survival and risk factors in a retrospective cohort of patients. J Small Anim Pract 2013;54:445-452.
  7. Yamane T, Fujii Y, Orito K, et al. Comparison of the effects of candesartan cilexetil and enalapril maleate on right ventricular myocardial remodeling in dogs with experimentally induced pulmonary stenosis. Am J Vet Res 2008;69:1574-1579.
  8. SKobayashi K, Hori Y, Chimura S. Plasma N-terminal pro B-type natriuretic peptide concentrations in dogs with pulmonic stenosis. J Vet Med Sci 2014;76:827-831.
  9. Francis AJ, Johnson MJ, Culshaw GC, et al. Outcome in 55 dogs with pulmonic stenosis that did not undergo balloon valvuloplasty or surgery. J Small Anim Pract 2011;52:282-288.
  10. Fingland RB, Bonagura JD, Myer CW. Pulmonic stenosis in the dog: 29 cases (1975-1984). J Am Vet Med Assoc 1986;189:218-226.
  11. Fujiwara M, Harada K, Mizuno T, et al. Surgical treatment of severe pulmonic stenosis under cardiopulmonary bypass in small dogs. J Small Anim Pract 2012;53:89-94.
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