疾患の解説

動脈管開存症

目次

動脈管開存症

動脈管開存症は比較的発生頻度(11~20.9%)の高い先天性心疾患です[1][2]
そもそも動脈管は大動脈と肺動脈をバイパスしている血管であり、赤ちゃんがお腹の中にいる時に機能しています(図1)。
通常は生後2~3日で退縮しますが、本疾患では動脈管が退縮しないために大動脈と肺動脈が短絡しています。
病態が進行すると全身状態は急激に悪化し、呼吸困難や左心不全、肺高血圧症などの合併症を引き起こし、命に関わることもあります。

 

 

動脈管開存症の原因

原因は未だ解明されていませんが、遺伝的要因が関係していると考えられています。

 

好発品種や好発年齢は?

  • コリー
  • シェットランド・シープドック
  • ポメラニアン
  • チワワ
  • ミニチュア・ダックスフンド
  • トイプードル など
動脈管開存症は生後に動脈管が閉鎖しないことが原因であり、多くは幼齢期の健康診断でみつかります。

 

検査・診断

1. 身体検査

動脈管開存症では左前胸部の心基底部を最強点とする連続性雑音が聴取されます[3]
健康診断時に連続性雑音が聴取されれば、本疾患を疑う必要があり精密検査が必要です。
一般的な臨床徴候としては運動不耐性、発育不良、呼吸速迫、発咳、バウンディングパルスなどがみられ、重症化すると分離性チアノーゼや失神がみられます[3][4]。さらに、うっ血性心不全に進展すると肺水腫を起こし、呼吸困難を呈します。

 

2. 胸部X線検査

動脈管開存症では重症度に応じて心拡大を確認することができます(図2)。
この他、本疾患による合併症(肺水腫や肺高血圧症)の有無などを確認することが出来ます。

 

 

 

 

 

3. 超音波検査

本疾患では肺動脈に流入する異常血流を検出することで確定診断することができます(図3)。
確定診断の他に、心拡大の程度や合併症の有無などを評価し、手術適応を判定しています。
本院では高性能の超音波検査機を用いて専門医が検査を行うため、短時間で正確な検査を受けることが可能です。

図3.動脈管開存症の犬の心エコー図検査画像
左図)肺動脈内に赤色を中心としたモザイク血流が表示されている。これは動脈管による短絡血流の存在を示唆している。
Ao:大動脈、PA:肺動脈、RV:右心室
右図)異常血流を連続波ドプラー検査で抽出すると、収縮期にも拡張期にも血流(白色の波形)が存在している。これは本疾患の診断的所見である。

 

4. 血液検査(心臓バイオマーカー検査)

心筋細胞から分泌される特殊な物質の血中濃度を測定することで、動脈管開存症に伴う心臓負荷を評価できる検査です。
また、動脈管開存症の治療後には血中濃度が低下(図4)[5]することから、治療効果の判定にも有用な検査法です。
本検査は外注検査になるため、結果が出るまで2~3日かかります。

 

 

 

 

治療

内科治療

内科治療は犬猫が手術を受けられる適正体重(約1.5kg)に成長するまでの血行動態や臨床徴候の改善を目的として利用しますが、インターベンション治療や外科治療が困難な場合には終生に渡って内科治療を継続する必要があります。
本疾患では一般的な心臓病と同様に血管拡張薬、利尿薬、強心薬を用います。

  • 利尿剤:尿を排出させることで全身の血液量を減らし、心臓の負担を減らします。
  • β遮断薬:心臓の過剰な興奮を抑制し、心臓が働きすぎて疲れないようにします。
  • 降圧剤(ACE阻害剤など):血管を拡張させて血圧を下げることによって、血液が循環しやくなります。
  • 強心薬(ピモベンダン):血管拡張作用と強心作用を併せ持ち、血液循環を改善させます。心不全症状の軽減に有効です。

 

外科治療

本疾患は根治が望める数少ない心疾患の一つであり、インターベンション治療や外科手術が利用されています。
また、臨床徴候が出ていなくても早期に手術治療することで、本疾患の予後を大幅に改善することが可能です[3]
このため、動脈管開存症が診断されたら無徴候でも早急(1歳まで)に手術を行うべきです。
外科手術では体重が1.5kg以上で肺高血圧症を合併していない症例が適応となります。
本院では原則として開胸手術による動脈管の結紮術を行っており、インターベンション治療は行っておりません。

(手術時の注意)
手術の際に生じる有害事象には出血、気胸、乳び胸、不整脈、心停止などが報告されています[4][6][7]
ある報告では、重度な左心房拡大のみられる場合は周術期の死亡リスクが20%に上ります。
さらに、肺高血圧症を合併している場合には短絡血流の遮断によって致命的な肺水腫と心不全を起こすことがあるため、手術治療は適応とならないことがあります。

 

予後

本疾患を手術治療した後の予後は非常に良好であり、通常の犬猫と同じ生涯を全うできます。
しかし、術前に既に重度の臨床徴候がみられる場合には予後が悪いため[3]、本疾患がみつかった場合には早期の手術をお勧めしています。

本疾患は生後1年未満に手術を行えば合併症や後遺症はほとんど残らず、大半の犬は元気に生活を送れます。
本院では専門医が詳細に心臓の状態を精査し、適切な治療法をご提案させて頂きます。
本疾患について気になることやご心配がある場合は、お気軽に本院にご相談ください(ただし、電話相談のみは受け付けていません)。

 

参考文献

  1. Oliveira P, Domenech O, Silva J, et al. Retrospective review of congenital heart disease in 976 dogs. J Vet Intern Med 2011;25:477-483.
  2. Tidholm A. Retrospective study of congenital heart defects in 151 dogs. J Small Anim Pract 1997;38:94-98.
  3. Saunders AB, Gordon SG, Boggess MM, et al. Long-term outcome in dogs with patent ductus arteriosus: 520 cases (1994-2009). J Vet Intern Med 2014;28:401-410.
  4. Van Israël N, French AT, Dukes-McEwan J, et al. Review of left-to-right shunting patent ductus arteriosus and short term outcome in 98 dogs. J Small Anim Pract 2002;43:395-400.
  5. Aramaki Y, Chimura S, Hori Y, et al. Therapeutic changes of plasma N-terminal pro-brain natriuretic Peptide concentrations in 9 dogs with patent ductus arteriosus. J Vet Med Sci 2011;73:83-88.
  6. Birchard SJ, Bonagura JD, Fingland RB. Results of ligation of patent ductus arteriosus in dogs: 201 cases (1969-1988). J Am Vet Med Assoc 1990;196:2011-2013.
  7. Stanley BJ, Luis-Fuentes V, Darke PG. Comparison of the incidence of residual shunting between two surgical techniques used for ligation of patent ductus arteriosus in the dog. Vet Surg 2003;32:231-237.
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