診断
肺高血圧症の正確な診断には心臓カテーテル検査が必要不可欠ですが、この検査には全身麻酔が必要です。
従って、臨床診断には超音波検査を用いた肺動脈圧の推定を行い、さらに症状を組み合わせた診断法が推奨されています。
1. 身体検査
初期:易疲労性、安静時・運動時の頻呼吸や努力呼吸
中期:低酸素血症に伴うチアノーゼ、発咳、失神
7,10,11
末期:右心不全に伴う肝腫大、腹水
7,10,11
犬猫では初期症状がわかり難いため、症状から肺高血圧症を疑うことは困難です。
また、症状だけで肺高血圧症を診断することはできません。
2. SPO2測定
重度の肺高血圧症では低酸素血症が起こるため、血中の酸素濃度が低下し息苦しくなります。この検査では小さなクリップを耳や指先に挟み、動脈中の酸素濃度を測定します(図1)。
測定値が≥95%だと正常ですが、95%未満だと苦しいと判断できます。

図1.肺高血酸素飽和度(SPO2)の測定風景
血液中にどの程度の酸素が含まれているかを測定しています。
3. 胸部X線検査
本検査は肺高血圧症の原因となる呼吸器疾患や心不全の有無を評価するために実施します。
また、拡大した肺血管や後大静脈、肝腫大などが認められる場合には肺高血圧症の可能性があります(図2)。
図2.肺高血圧症の犬の胸部X線検査所見
心陰影の拡大と肺野の不透過性亢進が認められる。腹部では肝腫大(緑線)が認められ、心不全および肺疾患に起因する高血圧症が疑われる。
4. 超音波検査
肺高血圧症では肺動脈圧と共に右心室圧が上昇し、結果として三尖弁逆流が高率に発生します
12。
三尖弁逆流がある場合には逆流速度から収縮期肺動脈圧を推定することで非侵襲的な肺高血圧症の診断が行えます。
人医では安静時の平均肺動脈圧が≧25mmHgの時に肺高血圧症と臨床診断していますが、ACVIMガイドラインでは肺動脈圧が≧45mmHg(三尖弁逆流速度>3.4m/sec)の時に肺高血圧症を診断します(図3)
1。
この診断基準では中程度の肺高血圧症に相当し、初期の肺高血圧症は見逃すかもしれませんが、真の肺高血圧症を高い確率で検出することができます。
図3.左心不全犬に見られた三尖弁逆流波形
超音波検査では三尖弁逆流速度は3.6m/sであり、中程度の肺血圧症が示唆される。
さらに、進行した肺高血圧症では右心室内腔の拡大と心室中隔の扁平化、肺動脈の拡大がみられます(図4)。
さらに、腹部を確認すると腫大した肝臓に加え、肝静脈の拡大が認められます(図5)。
図4.肺高血圧症の犬の超音波検査所見
左図)左室短軸像では拡大した右心室内腔に加え、扁平化した心室中隔が認められる。
中図)左室長軸断面においても顕著な右肺動脈の拡張(13mm)が認められる(正常は約5mm)。
右図)心基底部短軸断面では肺動脈の拡大がみられる。肺動脈径/大動脈経比は1.13であった(通常は約1.00)。
図5.肺高血圧症の犬の腹部超音波検査所見
拡張した後大動脈が認められ、重度に進行した肺高血圧症が疑われる。このような症例は腹水貯留が起こる可能性がある。
ACVIMガイドラインでは三尖弁逆流速度に加え、以下に示すような異常所見と合わせて肺高血圧症を診断することを推奨しています
1。
異常所見1 (心室) |
異常所見2 (肺動脈) |
異常所見3 (右心房&後大静脈) |
心室中隔の扁平化 (収縮期) |
肺動脈拡大 (PA/Ao>1.0) |
右心房の拡大 |
左心室腔の容積・充満低下 |
肺動脈弁逆流速度>2.5m/sec |
後大静脈の拡大 |
右心室肥大 (壁の肥厚、内腔拡大) |
RPAD index <30% |
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右心室収縮不全 |
右室流出路血流
加速時間<52-58 msec
AT/ET比<3.0 ノッチ |
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